はじめに
近年,カメラやレーダなどのセンサを車両に搭載し安全運転支援システムが広く普及し始め,加えて,より高度なセンサ技術を利用し高速で高精度な計算を行うことで, ドライバの操作が全く不要な無人でも走行できる自動運転の研究も活発に行われ始めました. しかし,車両に搭載されたセンサからでは,車両から見える範囲は検知できても,もともと見えないところはどうしても見えないため, 見通しの悪い交差点における出会い頭の衝突や,物かげからの歩行者の急な飛び出しには対応できません.
一方で,最近では特に高齢者による運転事故件数が高い水準で推移している状況にあり,さらなる超高齢化社会の到来に向け, 高齢者が活発に活動できるような安全・安心で,環境にも優しく,快適に移動できる手段が求められるようになってきました.
このような状況において,モビリティ研究センターでは,高齢者を想定したドライバとなるヒト,走行中のクルマ,および,その周辺環境をリアルタイムにセンシングし, 人工知能となるコンピュータソフトウエアのエージェント技術においてヒトの動作を予測し周辺環境に適応した車両の運転支援技術を確立することで,これまでの自動運転に関する研究とは異なり, ヒトとクルマの共存および周辺車両や環境との協調を行う進化適応型自動車運転システム「ドライバ・イン・ザ・ループ」の研究を開始しました.
研究テーマ
パーソナルモビリティ関連研究にドライバの生体センシングを導入することで,さらなる発展を目指します.
ヒト生体情報の解析技術を駆使し,ヒトの運転特性を把握し,ソフトウェアエージェントとして遺伝的アルゴリズム・機械学習を利用して運転システムをソフトウェア的に進化させながら最適解に近づけ, 周辺車両がセンシングした環境認識状況を相互に交換しながら,ヒトと車両の挙動の将来の状態を予測することで,より安全に車両を制御するアプローチを採ります. 周辺状況の認知,判断,操作の遅延問題に対して,物理モデルを使って未来の値を予測する進化型エージェントアルゴリズムに関するこれまでの研究成果に加えて, 新たに化学・脳科学・認知科学を融合しヒトを解析する研究成果を融合することで,現在,多方面で行われている無人化可能な自動走行の研究よりもさらにチャレンジングなテーマとなるヒト(ドライバ)の動的特性をシステム内に取り込んだモデルの構築を通して,クルマがヒトに適応することを目指しています.
これらの技術を実現するため,新たな実験環境であるドライビングシミュレータおよび,自動運転実験のための遠隔操作可能な実験用車両を導入し,無線ネットワークにより相互に連携できる実験環境を構築しました.
高齢者ドライバごとの遺伝的アルゴリズムに基づくモデルの確立,より高い安全性を実現するためには, 従来以上に車両周辺状況を他車両や道路に設置された機器と協調してセンシングし,雑踏環境の中でも正確に動作が予測可能なアルゴリズムの開発,高齢者の運転行動モデル構築のために, ヒト生体情報のより高度な多次元解析,センシング情報をネットワークで接続された各車両, データセンタで高速に分散処理する必要があり効率的で安全性の高い通信ネットワークおよびセンサ処理のための情報通信プラットフォームの研究開発を実施します.